お子さまが突然、壁や床に頭を打ちつけたり、自分の頭や顔を手で叩いたりする姿を見ると、「どうしてこんなことをするのだろう」「自閉症のサインなのでは」と不安になる保護者の方もいらっしゃいます。
頭を打ちつける、自分を叩くといった自分の体を傷つける行動は「自傷行動」と呼ばれます。自閉症スペクトラム症(ASD)のある子どもに見られることはありますが、この行動だけで自閉症と判断することはできません。自閉症ではない乳幼児にも、要求が伝わらないときや、怒りや不安が強まったときなどに見られることがあります。
大切なのは、「やめさせなければ」と行動だけを見るのではなく、まずけがを防ぎ、そのうえで、頭を打つ直前に何があったのかを見ていくことです。同じように見える行動でも、ことばで要求を伝えにくい、強い不安や怒りがある、特定の感覚を求めているなど、理由は子どもによって異なります。
このページでは、児童発達支援事業所ゆめラボの視点から、子どもが頭を壁や床に打ちつける行動と自閉症との関係、自分を叩く理由、家庭での安全な対応、相談を考えたい目安について解説します。
「頭を何度も打ちつけるのは、自閉症だからでしょうか」と心配される方もいます。
まず知っておきたいのは、一つの行動だけでは判断できないということです。自閉症のある子どもに自傷行動が見られることはありますが、頭を打つという行動そのものが自閉症を示すわけではありません。
自閉症スペクトラム症は、対人関係やコミュニケーションの特徴、限定された興味や反復的な行動など、複数の特徴と発達の経過をもとに判断されます。そのため、「壁に頭を打ちつける」「自分を叩く」という一つの行動だけを見て、自閉症かどうかを決めることはできません。
頭を打つ姿があったときは、頭を打つ行動をすぐに自閉症と結びつけるよりも、どのような場面で起きるのか、ことばの発達や人とのやり取りにほかの気になる点があるのか、日常生活にどの程度影響しているのかを見る必要があります。
乳幼児期の自閉症の特徴そのものを確認したい場合は、0〜1歳で気になる自閉症の特徴と初期サインも参考にしてください。
自閉症のある子どもの中には、強い不安や混乱が生じたとき、要求が相手に伝わらないとき、強い感覚刺激を求めるときなどに、頭を壁や床へ打ちつけたり、自分の頭や顔を叩いたりする子がいます。
ここでいう自傷行動は、子どもが自分を傷つけることを目的にしているとは限りません。ことばで「嫌だ」「やめて」「助けて」と伝える代わりに行動が出ていることもあれば、気持ちが高ぶった結果として頭を打つ動きを自分で止めにくくなっていることもあります。
そのため、自傷行動が見られたときは「自閉症だから仕方がない」と受け止めるのではなく、その行動が出る直前に何があったのかを見ることが支援につながります。
頭を床に打ちつける行動は、自閉症のない乳幼児にも見られます。まだことばで十分に要求を伝えられない時期には、欲しいものが手に入らなかった、遊びを止められた、思うようにならなかったといった場面で、強い気持ちが頭を打つ行動として表れることがあります。
一度見られたからといって、すぐに発達障害を疑う必要はありません。一方で、何度も繰り返す、打つ力が強い、けがにつながっている、生活の中で頻繁に起きているときは、「乳幼児には見られることがあるから」と長く様子を見続けないことが大切です。
自閉症かどうかだけに注目するのではなく、頭を打つことでけがにつながっていないか、家庭生活にどの程度影響しているかも確認します。
頭を打ちつける理由は一つではありません。ゆめラボでも、行動そのものだけでなく、その前に起きたことや子どもの反応を見ながら背景を考えます。
特に確認したいのが、伝えることの難しさ、気持ちの高まり、感覚刺激を求めているかどうかです。
「まだ遊びたい」「それが欲しい」「やめてほしい」「ここから離れたい」と思っていても、ことばや身振りで相手に伝えることが難しい子がいます。そのようなときに、頭を打つ、自分を叩くという行動が要求や拒否を伝える手段になっていることがあります。
たとえば、おもちゃを取り上げられた直後だけ頭を打つのであれば、「まだ使いたい」という気持ちが関係している可能性があります。難しい課題を出された直後に自分を叩くのであれば、「できない」「やめたい」をうまく伝えられていないこともあります。
この場合、頭を打つ行動だけを止めようとしても、本人が代わりにどう伝えればよいか分からないままです。「いや」「おしまい」「手伝って」など、その子が使えることばや身振りを増やし、自分の意思が別の方法でも伝わる経験を増やしていきます。
予定どおりに進まない、遊びを中断された、思っていたものと違ったなど、子どもにとって受け止めにくい出来事が起きたときに、怒りや不安が一気に大きくなることがあります。
気持ちが高ぶっている最中は、大人の説明を聞いたり、自分で別の行動へ切り替えたりすることが難しくなります。その状態で長く言い聞かせたり、何度も理由を尋ねたりすると、さらに刺激が増えて頭を打つ行動が続くこともあります。
まずけがを防ぎ、気持ちの高ぶりが収まるまで必要な声かけだけにすることが先です。落ち着いたあとで「終わるのが嫌だったね」「手伝ってと言おうね」のように、そのとき伝えたかったことを言葉にし、次に使える伝え方を一緒に確認します。
子どもの中には、体を大きく揺らす、強く押す、ぶつかるなど、強い感覚刺激を繰り返し求める子がいます。頭が揺れる感覚や、額に強い刺激が加わる感覚を繰り返し求め、頭を打つ行動につながることもあります。
ただし、感覚を求めているからといって、頭を壁や床に打ちつける行動をそのまま続けてよいわけではありません。けがを防ぐことを優先しながら、押す、引く、体を動かすなど、本人が求める刺激を安全に得られる遊びや活動へ置き換えていきます。
揺れや回転などの刺激を何度も求める子については、子どもがくるくる回るのはなぜ?発達障害との関係と家庭での対処法でも紹介しています。
頭を打ちつけている最中は、理由をその場で聞き出そうとするより、けがを防ぐことが最優先です。
安全を確保して気持ちが落ち着いてから、行動が起きた状況を振り返ります。
壁や床に頭を打ちつけ始めたら、硬い場所との間にクッションや座布団を入れる、角のある家具から離すなどして頭を守ります。移動できる状況であれば、硬い家具が少ない場所へ誘導します。
手で自分の頭や顔を叩いているときも、けがにつながる強さであれば手を添えて、頭や顔を強く叩き続けないようにします。ただし、大人が強く押さえつけ続けると、子どもの不安や抵抗が強くなることがあります。必要な範囲で危険を防ぎながら、刺激の少ない場所や状況に移します。
すでに強く頭を打ったあとに、意識がぼんやりしている、繰り返し吐く、けいれんがある、普段と明らかに様子が違うといった症状が見られるときは、発達特性への対応よりも先に医療機関へ相談してください。
頭を打つ行動を目の前にすると、「やめなさい」「危ないでしょ」と何度も強く言いたくなる場面があります。しかし、子どもがすでに強く興奮しているときは、大きな声や長い説明そのものが新しい刺激になることがあります。
安全が確保できたら、テレビや音の出る玩具を止める、人が多い場所から離れる、大人の声かけを短くするなど、周囲から入る刺激を減らします。「ここで休もう」「大丈夫、頭を守るよ」のように短いことばで伝え、落ち着くまで待ちます。
この場面では、謝らせる、理由を答えさせる、約束をさせることを急ぎません。話を聞ける状態に戻ってから、次にどう伝えるかを一緒に確認します。
頭を打つ行動が繰り返されるときは、行動の前後を見ると理由をつかみやすくなります。頭を打った回数だけでなく、その前後に何があったかも見ます。
たとえば、直前に何をしていたのか、誰が何を伝えたのか、予定変更があったのか、眠そうだったのかを確認します。壁へ何回ほど打ったのか、自分のどこをどのくらいの強さで叩いたのかも見ておきます。そのうえで、行動のあとに要求が通ったのか、活動が中止になったのか、大人が抱っこしたのかなど、その後に何が変わったかも確認します。
「遊びを終えると毎回起きる」「難しい課題のときだけ出る」「眠い時間帯に増える」といった傾向が分かれば、次に同じ場面が来る前に声かけや環境を変えやすくなります。
頭を打つ行動があるからといって、必ず専門機関への相談が必要になるわけではありません。
ただし、けがが起きている、強さが増している、家庭で安全を守ることが難しいときは、様子を見るだけにせず、相談を考えます。
壁や床へ頭を打ちつけた結果、出血する、腫れる、傷ができるなど、実際にけがにつながっているときは相談が必要です。頭は見た目だけでは状態を判断しにくいため、強く打ったあとに普段と違う様子があるときは医療機関に相談してください。
特に、呼びかけへの反応が鈍い、意識がぼんやりしている、何度も吐く、けいれんするといった変化がある場合は、児童発達支援より先に医療機関の受診を優先してください。
以前はときどきだったのに毎日のように起きるようになった、軽く額を当てる程度だったのに強く打ちつけるようになった、短時間で終わっていたのに長く続くようになったという変化があるときも、相談を考えたい状態です。
回数や強さが増えているときは、本人が困っている場面が増えた、要求や不快感を伝えにくい場面が増えた、生活環境の変化が影響しているなど、行動が強くなった背景を確認する必要があります。
「そのうちやめるだろう」と待ち続けるのではなく、いつ、どこで、何のあとに起きやすいかを記録して、小児科、発達相談の窓口、児童発達支援事業所などへ相談してください。
保護者が常にそばにいなければ頭を打ってしまう、外出先でも突然始まる、止めようとするとさらに強くなるなど、家庭だけでは安全を守りにくくなっているときも相談の目安です。
児童発達支援では、頭を打つ行動だけを見るのではなく、どの場面で起きているのか、何を伝えようとしているのか、どのような関わり方で落ち着きやすいのかを確認し、家庭や園での様子と合わせて支援方法を考えます。
頭を打つ行動に加えて、物を投げる、人を叩くなどの行動も見られる場合は、子どもが家で暴れるのはなぜ?発達障害のある子への対応と家庭でできる工夫もあわせてご覧ください。
子どもが頭を壁や床に打ちつけたり、自分を叩いたりする行動は、自閉症のある子どもに見られることがあります。ただし、この行動だけで自閉症と判断することはできず、自閉症ではない乳幼児にも見られます。
大切なのは、自閉症かどうかを行動一つで決めることではなく、まず頭を守り、どのような場面で自傷行動が起きているのかを見ることです。要求が伝わらない、怒りや不安が大きくなった、感覚を求めているなど、理由によって必要な関わり方は変わります。
出血や腫れにつながっている、回数や強さが増えている、家庭だけでは安全を守ることが難しいと感じるときは、早めに医療機関や発達相談、児童発達支援へつなげてください。
ゆめラボでは、お子さま一人ひとりの行動が起きる場面を見ながら、気持ちや要求を別の方法で伝える練習、落ち着きやすい環境づくり、安全に体を動かせる活動などを個別療育の中で行っています。
頭を打ちつける、自分を叩く行動への対応に迷っている方は、お近くのゆめラボへご相談ください。
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