お子さまが欲しいものを取ってほしいとき、言葉で伝える代わりに保護者の手を引いてその場所まで連れていくことがあります。
このように、大人の手を使って要求を伝える行動は「クレーン現象」と呼ばれることがあります。
インターネットで調べると「クレーン現象は自閉症のサイン」と書かれていることもあり、不安になる保護者の方も少なくありません。
ただし、クレーン現象があるからといって、それだけで自閉症と決まるわけではありません。大切なのは、手を引く行動だけを見るのではなく、指差し、視線、ことば、まねっこ、やりとりの広がりなどをあわせて見ることです。
このページでは、クレーン現象とはどのような行動なのか、自閉症との関係、年齢ごとの見方、家庭での関わり方、相談を考えたいケースについて、児童発達支援事業所ゆめラボの視点から解説します。
INDEX
クレーン現象とは、子どもが自分の要求を伝えるときに、大人の手を引いたり、大人の手で物を取らせようとしたり、操作してもらおうとしたりする行動です。
たとえば、お菓子の袋を開けてほしいときに保護者の手を袋に持っていく、おもちゃを取ってほしいときに棚の前まで手を引く、テレビをつけてほしいときにリモコンに保護者の手を持っていくなどの姿が見られます。
子どもにとっては「伝えようとしている行動」ですが、大人から見ると「手を道具のように使っている」と感じられることがあります。
クレーン現象では、子どもが欲しいものを指で示す代わりに、大人の手を目的の場所まで持っていこうとします。水筒を開けてほしい、箱を開けてほしい、高い場所にあるおもちゃを取ってほしいなど、自分だけではできないことを大人にしてもらいたいときに起こりやすい行動です。
このとき、子どもはただ手を引いているのではなく、「これをしてほしい」という要求を何らかの形で伝えようとしています。
小さな子どもは、まだ十分にことばで説明できません。そのため、「取って」「開けて」「来て」などを言葉で伝える前に、大人の手を引くことで要求を表すことがあります。指差しがまだ少ない時期や、ことばよりも行動で伝える方が早いと感じている時期には、手を引く行動が出ることがあります。
ただし、年齢が上がっても要求のほとんどが手を引く形になっている場合や、視線、表情、指差しを使ったやりとりが少ない場合は、コミュニケーションの育ちを見ていく必要があります。
クレーン現象が気になりやすい理由のひとつは、大人の手を「人の手」としてではなく「目的を達成するための手段」のように使っているように受け取られやすい点です。
たとえば、保護者の顔を見ずに手だけを引く、相手の反応を待たずに手を物のところへ持っていく、何度も同じように手を使うといった姿です。
ただ、ここで大切なのは、すぐに「おかしい」と決めつけないことです。子どもは今持っている伝え方の中で、いちばん使いやすい方法を選んでいることがあります。
クレーン現象は、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもに見られることがあります。そのため、「クレーン現象=自閉症」「クレーン現象=発達障害」と受け止めてしまう保護者の方もいます。
しかし、クレーン現象だけで自閉症かどうかを判断することはできません。自閉症かどうかは、医師が発達の経過、行動の特徴、対人面、コミュニケーション、生活上の困りごとなどを見ながら判断します。
家庭で見るときには、クレーン現象の有無だけではなく、子どもが人とどのように関わろうとしているかを見ることが重要です。
クレーン現象は、自閉症の可能性を考えるきっかけになることはありますが、それだけで診断につながるものではありません。1歳から2歳ごろは、ことばや指差しが育っている途中です。うまく言えないことを行動で伝える場面は、多くの子どもに見られます。
一方で、手を引く行動が目立つだけでなく、名前を呼んでも反応が少ない、視線が合いにくい、指差しで人と気持ちを共有することが少ない、遊びが広がりにくいといった姿が重なる場合は、一度相談しておくと安心です。
自閉スペクトラム症の子どもは、相手の視線や表情を見ながら気持ちを共有すること、ことばや身振りで要求を伝えることに難しさが出る場合があります。そのため、「あれを取ってほしい」「ここを開けてほしい」という気持ちはあっても、相手の顔を見る、指差しをする、ことばで伝えるという方法につながりにくいことがあります。
その結果として、大人の手を引いて目的を達成する行動が出ることがあります。これは、子どもがわざと困らせているのではなく、今の段階で使える伝え方が限られている状態ととらえると、関わり方を考えやすくなります。
クレーン現象のような手を引く行動は、発達の途中で一時的に見られることもあります。たとえば、まだ「開けて」と言えない時期に袋を持ってくる、欲しいものを指差す前に大人を連れていく、急いで伝えたいときに言葉より先に手が出るということがあります。
その後、指差し、身振り、ことば、視線での確認が増えていく場合は、伝え方の発達の中で見られた行動と考えられます。反対に、年齢が上がっても伝え方が広がりにくい場合は、関わり方を見直す機会になります。
クレーン現象は、主にことばや指差しが発達している途中の時期に見られます。
特に1歳から2歳ごろは、欲しいものははっきりしているのに、まだ言葉で伝えきれないことが多い時期です。そのため、大人の手を引いて要求を伝えることがあります。
クレーン現象を何歳まで様子を見るかは、年齢だけで決めるものではありません。年齢が上がるにつれて、指差し、身振り、単語、二語文、視線の共有など、伝え方が少しずつ増えていくかどうかが大切です。
1歳から2歳ごろの子どもは、まだ自分の思いを言葉だけで伝えることが難しい時期です。「あれがほしい」「あそこに行きたい」「これを開けてほしい」という気持ちが強くなる一方で、ことばや指差しが追いつかないことがあります。
そのため、大人の手を引く、物のところまで連れていく、手を持って動かそうとする行動が出ることがあります。この時期は、手を引く行動があるかどうかだけでなく、その後に大人の顔を見るか、反応を待つか、声や表情が出るかも見ていきます。
2歳を過ぎても、要求の多くが手を引く形で、指差しやことばが少ない場合は、コミュニケーションの発達を確認するきっかけになります。
特に、欲しいものを取ってもらう場面では手を引くけれど、嬉しいものを見つけたときに大人と一緒に見ようとしない、興味のあるものを指差して伝えることが少ない場合は、共同注意の育ちもあわせて確認したいポイントです。
指差しや視線の育ちについては、ゆめラボの発達障害の子どもの共同注意を育てる療育遊び|指差し・視線・まねっこ支援でも紹介しています。
3歳以降になっても、要求の多くがクレーン現象のような手を引く行動で伝えられている場合は、家庭や園での困りごとにつながることがあります。
たとえば、友だちや先生に伝えたいことがあるのに言葉や身振りにしにくい、思い通りにならないと泣く、怒る、手を強く引くといった姿です。
この場合、手を引く行動をやめさせることだけを目標にするのではなく、子どもが別の伝え方を使えるようにすることが大切です。
クレーン現象が気になるときは、「手を引くかどうか」だけを見るのではなく、子どもが普段どのように人と関わっているかを見ることが大切です。同じように手を引く行動があっても、視線で確認する子、声を出す子、指差しとあわせて使う子、相手の反応をあまり見ない子では、背景が異なります。
ここでは、家庭で見ておきたいポイントを紹介します。
子どもが何かを伝えたいとき、指差しや視線が出ているかを見ます。欲しいものを指差す、見てほしいものを指差す、大人の顔と物を交互に見るといった姿は、人と気持ちを共有する力につながります。
クレーン現象があっても、指差しや視線で大人に伝えようとする姿が増えている場合は、伝え方が広がっている途中と考えられます。
名前を呼ばれたときに振り向くか、声の方向を見るか、大人の表情に気づくかも見ておきたい点です。遊びに集中しているときに反応しにくいことはありますが、日常的に呼びかけへの反応が少ない場合は、聞こえの確認や発達面の相談につなげることがあります。
クレーン現象とあわせて、呼びかけへの反応、視線の合いやすさ、やりとりの続きやすさを見ることで、子どもがつまずきやすい場面を確認しやすくなります。
大人の動きをまねる、手遊びをまねる、音をまねる、簡単なやりとり遊びを楽しむといった姿も大切です。まねっこは、ことばや社会性の土台になります。大人の動きや声を見て、自分でもやってみようとする経験が増えると、人との関わりが広がりやすくなります。
クレーン現象がある子どもでも、まねっこや交互の遊びが増えている場合は、そこから指差しやことばにつなげていく関わりがしやすくなります。
ことばが少ない時期でも、子どもはさまざまな方法で気持ちを伝えています。
表情、声、身振り、指差し、物を持ってくる、視線で知らせるなど、ことば以外の伝え方が出ているかを見ます。手を引く行動だけが目立つ場合でも、そこに声や視線、表情を少しずつ足していくことで、伝える力を育てやすくなります。
言葉が出る前の力については、療育で伸ばす言語前スキル|模倣・共同注意・指差し要求を日常で育てるでも紹介しています。
クレーン現象があると、保護者の方は「このままで大丈夫かな」「手を引くのをやめさせた方がいいのかな」と迷うことがあります。
しかし、手を引く行動を急に止めようとすると、子どもは伝える方法を失ってしまうことがあります。まずは、子どもが何を伝えようとしているのかを受け止めた上で、少しずつ別の伝え方を増やしていくことが大切です。
クレーン現象は、子どもにとって要求を伝える手段になっている場合があります。
そのため、「手を引っ張らないで」「ちゃんと言いなさい」と強く叱ると、子どもは何をすればよいのか分からなくなってしまうことがあります。まずは、「開けてほしかったんだね」「これがほしかったんだね」と気持ちを言葉にして返します。その上で、次の伝え方につながる声かけを加えます。
子どもが手を引いたときは、行動だけを見るのではなく、その先にある気持ちを見ます。おもちゃを取ってほしいのか、ドアを開けてほしいのか、抱っこしてほしいのか、場所を変えたいのかによって、大人の返し方は変わります。
子どもの要求が伝わった経験は、次のコミュニケーションにつながります。「伝えたら分かってもらえた」という安心感があると、声、視線、身振り、ことばを使う力が育ちやすくなります。
クレーン現象が出たときは、大人が短いことばを添えると、子どもが次に使える言葉の見本になります。たとえば、袋を開けてほしい場面では「開けてだね」、棚の上のおもちゃが欲しい場面では「取ってだね」と返します。
長く説明するよりも、子どもがその場で使いやすい短い言葉にすることが大切です。すぐに言わせようとするのではなく、大人が毎回同じ言葉を添えることで、子どもの中に言葉が残りやすくなります。
要求を表すことばの育て方については、ゆめラボの子どもが「ちょうだい」と言えないときに|泣く・取る・クレーンから要求語を育てる方法でも紹介しています。
手を引く行動から、指差しや視線で伝える行動へつなげるには、大人の待ち方が重要です。
子どもが手を引いたら、すぐにすべて応じるのではなく、目的の物の近くで少し待ちます。そして、「どれかな」「これかな」と言いながら、子どもの視線や手の動きを待ちます。
子どもが物を見る、手を伸ばす、声を出す、指を向けるなど、少しでも伝えようとしたら、大人が「これだね」と受け取ります。この小さな積み重ねが、手を引く以外の伝え方につながります。
家庭でできることは、特別な訓練を増やすことではありません。毎日の生活の中で、子どもが「伝える」「待つ」「伝わる」を経験できる場面を作ることです。食事、着替え、遊び、外出前の準備など、子どもが要求を出しやすい場面はたくさんあります。
その中で、子どもの今の伝え方を大切にしながら、指差し、視線、身振り、ことばへ少しずつ広げていきます。
手を引く行動が出たときは、まず「何をしたいのか」を見ます。水が飲みたいのか、テレビをつけてほしいのか、遊んでほしいのか、外へ行きたいのかによって、必要な声かけは変わります。
大人が先回りしすぎると、子どもが伝える前に要求がかなってしまいます。反対に、待ちすぎると子どもが困って泣いたり怒ったりすることがあります。子どもが伝えようとした瞬間を見つけて、そこに言葉を添えることが大切です。
子どもが手を引いたとき、すぐに目的の物を渡すのではなく、ほんの少しだけ待つ時間を作ります。
このときの待つ時間は、子どもが困り切るほど長くする必要はありません。大人が物を手に取り、「これ?」と見せて、子どもの視線、声、手の動きを待ちます。
子どもが何らかの反応を出したら、「これだね」「取ってだね」と返します。少し待つことで、子どもが自分から伝える機会を持ちやすくなります。
ことばだけで伝えることが難しい場合は、絵カードや写真を使う方法もあります。飲み物、おやつ、おもちゃ、トイレ、外遊びなど、子どもがよく要求するものを写真にしておくと、手を引く以外の伝え方を作りやすくなります。
絵カードや写真は、ことばの代わりに使うだけではありません。カードを見せながら「ジュース」「外行く」「開けて」と大人が言葉を添えることで、視覚と言葉がつながりやすくなります。
子どもが指を向けた、声を出した、物を見た、カードを渡したなど、少しでも伝える行動が出たときは、大人が言葉にして返します。
「お茶だね」「開けてだね」「もう一回したいんだね」と返すことで、子どもは自分の行動と言葉の意味を結びつけやすくなります。うまく言えたかどうかよりも、伝えようとしたことが大切です。伝えた経験が増えると、手を引く以外の方法も使いやすくなります。
クレーン現象があるだけで、すぐに専門機関へ行かなければならないわけではありません。
ただし、クレーン現象に加えて、ことば、視線、指差し、遊び、園生活の中で気になる姿が重なっている場合は、早めに相談することで家庭での関わり方を考えやすくなります。
保護者だけで悩み続けるよりも、今の発達段階を一緒に確認することで、子どもに合う関わりを考えやすくなります。
クレーン現象とあわせて、ことばの少なさが気になる場合は、言葉そのものだけでなく、伝えたい気持ちや人への関心も見ます。
単語が少ない、二語文が出にくい、言葉は出ているけれど要求ややりとりに使いにくいなど、ことばの困りごとは子どもによって違います。
ことばの遅れについては、ゆめラボのことばが遅いのは様子見でいい?広島市南区で児童発達支援事業所を探す方へでも紹介しています。
指差しや視線のやりとりが少ない場合は、要求だけでなく「一緒に見る」「一緒に楽しむ」経験が育ちにくいことがあります。
欲しいものを取ってもらうための手段として大人に関わることはあっても、面白いものを見つけて大人と共有することが少ない場合は、共同注意の発達を見ていく必要があります。
家庭では、子どもが見ているものに大人が寄り添い、「見つけたね」「光ってるね」「走ったね」と短く言葉を添える関わりから始めます。
クレーン現象に加えて、同じ遊びを長く繰り返す、物の並べ方に強いこだわりがある、予定が変わると大きく崩れるといった姿がある場合もあります。
このような姿があるときは、子どもが安心しやすい流れや、気持ちの切り替え方を考えることが大切です。
行動をただ止めるのではなく、子どもにとって何が分かりにくいのか、何が不安につながっているのかを見ながら関わることで、生活の中での困りごとを減らしやすくなります。
家庭では大人が子どもの要求をくみ取りやすくても、園生活では同じように伝わらないことがあります。
先生にうまく要求できない、友だちのおもちゃを取ってしまう、思い通りにならないと泣く、活動の切り替えが難しいといった姿が出ることがあります。
園生活で困りごとが出ている場合は、家庭だけで抱え込まず、園や専門機関、児童発達支援事業所に相談しながら、子どもに合う伝え方を増やしていくことが大切です。
クレーン現象は、子どもが大人の手を使って要求を伝える行動です。自閉症の子どもに見られることはありますが、クレーン現象だけで自閉症と判断することはできません。
大切なのは、手を引く行動だけを見るのではなく、指差し、視線、ことば、まねっこ、やりとり遊び、園生活での様子をあわせて見ることです。
ゆめラボでは、クレーン現象やことばの遅れ、指差しの少なさ、視線の合いにくさなどが気になる未就学のお子さまに対して、一人ひとりの発達段階に合わせた個別療育を行っています。
無理に言葉を言わせるのではなく、お子さまが今使っている伝え方を大切にしながら、視線、身振り、指差し、ことばへつながる関わりを増やしていきます。
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