「原稿用紙を渡すと固まってしまう」「一文字も進まないまま時間だけが過ぎていく」。作文の宿題を前にしたお子さんの様子を見て、どう声をかければいいのか分からなくなった保護者の方は多いのではないでしょうか。
話すことは得意なのに、いざ書くとなると手が止まってしまう。発達が気になる小学生の場合、このギャップの背景に発達の特性が関わっていることもあり、こうした声を私たちは日々の療育の現場でもよく耳にします。
このページでは、作文が書けない背景にあるつまずきの正体と、家庭で今日から試せる具体的なサポートの工夫について、児童発達支援の専門家の視点からお伝えします。
INDEX
実は作文でつまずく小学生は珍しくなく、その背景には発達の特性が関わっていることもあります。まずは全体像から見ていきましょう。
作文が書けないという悩みは、実はいろいろなご家庭で聞かれるものです。読書感想文や日記、行事の作文など、小学校では書く機会が繰り返し訪れますが、そのたびに親子でぶつかり合ってしまうという声を聞くことがあります。
書く内容を口では説明できるのに、いざ鉛筆を持つと言葉が出てこない。保護者が代わりに例文を考えても、そのまま写すだけで終わってしまう。
こうした場面が積み重なると、作文の時間そのものが親子にとって重荷になっていきます。
作文を書くという行為は、体験を思い出す力、その体験を言葉に置き換える力、話の流れを考える力、鉛筆を動かす力など、複数の力を同時に働かせる作業です。
発達に特性のあるお子さん、たとえばADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)の傾向があるお子さんの場合、この一連の流れのどこか一部分に強いつまずきが生じやすく、「書けない」という状態として表れます。
読み書きの土台となる力については、ひらがなの読み書きにつまずきが見られる場合の考え方でも触れていますが、作文の難しさもこうした特性と無関係ではありません。
ただし、書けないからといって、それだけで発達障害があると決めつけられるものでもない点は押さえておきたいところです。
「何を書けばいいか分からない」という言葉の裏には、実はいくつかの異なるつまずきが隠れています。
「今日あった出来事を書いてね」と言われても、頭の中にある記憶を必要な場面だけ引き出すのは、実はかなり高度な作業です。
楽しかった気持ちは残っていても、いつ、どこで、誰と、何をしたのかという具体的な場面が曖昧になってしまい、書き出す手がかりそのものが見つからず、手が止まってしまいます。話を聞けば断片的に出てくるのに、白紙を前にすると何も浮かばなくなる子どもは少なくありません。
これは記憶が薄いのではなく、記憶を言葉として引き出すところに、ハードルがあると考えられます。
体験を思い出せたとしても、次に必要になるのが、それをどの順番で並べるかという作業です。出来事の順番と話したい順番がずれてしまったり、一番伝えたい場面と前置きの場面の重みが同じになってしまったりすると、文章にしたときにちぐはぐな印象になります。
頭の中では色々な場面が同時に浮かんでいるのに、それを一本の時系列に落とし込む段階でつまずき、「何から書けばいいか分からない」という状態に陥りやすくなります。
作文でよく求められる「思ったこと」「感じたこと」を書く場面も、大きなハードルになります。楽しい、嬉しいといった感情は確かに存在していても、それをどの言葉に当てはめればよいのか分からず、結局「楽しかったです」という一言で止まってしまいます。
感情そのものを感じ取る力と、それを他人に伝わる言葉に変換する力は別の作業であり、この橋渡しの部分でつまずいているお子さんは珍しくありません。

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作文が書けない子どもの様子は一様ではなく、いくつかのタイプに分けて捉えることができます。ここでは代表的な4つのパターンを紹介します。
何を書けばいいか分からず、原稿用紙を前にしたまま固まってしまうタイプです。頭の中に浮かぶ場面はあっても、どこから手を付ければよいのか判断できず、書き出しの一文が出てこないまま時間だけが過ぎていきます。
周りからは「やる気がない」と見えてしまいがちですが、本人の中では強い焦りが生まれていることも多いです。
「朝、公園に行きました。ブランコに乗りました。楽しかったです。」というように、出来事を短く切って並べるだけの文章になるタイプです。
一文一文は正しく書けているものの、場面と場面をつなぐ言葉や、出来事の背景にある気持ちが抜け落ちてしまい、文章全体が単調に見えてしまいます。
書き始めた出来事から連想が広がり、途中から別の話題に移ってしまうタイプです。
頭に浮かんだことを次々書き足していくため、原稿用紙は埋まるものの、読み手からすると何が一番伝えたかったことなのか分かりにくい文章になりがちです。
夢中になって書いているぶん、本人は脱線に気づきにくいという特徴があります。
出来事の説明はできても、感想の部分になると決まって同じ言葉で締めくくられるタイプです。
語彙が少ないというより、自分の中にある感情を細かく言い分ける経験がまだ十分に積み重なっていないケースが多く、体験と言葉の結びつきを増やしていくことが助けになります。
つまずきの背景が見えてくると、家庭での関わり方にも工夫の余地が生まれます。ここでは今日から試せる4つの工夫を紹介します。
白紙を前にすると固まってしまうお子さんには、まず口頭で今日の出来事を話してもらうところから始めると負担が軽くなります。
保護者が聞き役になり、うなずきながら話を引き出すだけで、頭の中の記憶が少しずつ言葉として形になっていきます。話した内容をそのまま書き写すだけでも、最初の一歩としては十分です。
「楽しかった?」という漠然とした問いかけでは、答えに詰まってしまうことがあります。
「誰と行ったの?」「どこが一番面白かった?」「その時どんな顔してた?」というように、場面を絞った質問を投げかけると、断片的だった記憶が具体的な言葉として引き出されやすくなります。
答えてもらった内容をメモしておくと、そのまま作文の材料として使えます。
頭の中だけで話の順番を組み立てるのが苦手なお子さんには、出来事を一つずつ付箋に書き出し、机の上で並べ替えながら順番を決める方法が助けになります。
文字にするのが負担な場合は、簡単なイラストで場面を描いてから、その絵の順に文章を当てはめていくやり方も有効です。目に見える形にすることで、話の流れを掴みやすくなります。
誤字や表現の粗さが気になり、つい直したくなる場面もあると思いますが、書き終えた直後にたくさんの指摘が入ると、次に書くこと自体への抵抗感が強まってしまいます。
まずは書き終えたという事実そのものを認め、直しが必要な部分は日を改めて一緒に見直すくらいの距離感でいると、お子さんも安心して取り組み続けられます。
つまずきに気づかないまま「とにかく書かせる」関わりを続けると、作文以外の場面にも影響が及ぶことがあります。
書けないまま時間だけが過ぎ、叱られる経験や気まずい沈黙が続くと、お子さんの中で「作文の時間=嫌な時間」という結びつきができあがってしまいます。
この思い込みが強くなると、書く前から拒否反応を示すようになり、本来持っている力を発揮する機会そのものが失われていきます。
周りの子が次々と原稿用紙を埋めていく中、自分だけ手が止まっている状況が続くと、「自分はできない」という感覚が積み重なっていきます。
作文だけの問題のはずが、次第に他の教科への自信や、学校生活全体への意欲にまで影響が及んでしまうケースも見られます。早い段階で本人に合った関わり方を見つけることが、こうした広がりを防ぐことにつながります。
作文が書けないという状態の背景には、記憶を引き出す力、話の順番を組み立てる力、気持ちを言葉に変換する力など、いくつもの要素が関わっています。
どこにつまずきがあるのかを掴まないまま「もっと頑張って」と声をかけ続けても、お子さんの負担が増すばかりで、状況が改善しにくいことも少なくありません。
児童発達支援事業所ゆめラボでは、発達が気になる小学生をはじめ、一人ひとりのお子さんがどの段階でつまずいているのかを見極めながら、その子に合った関わり方を保護者の方と一緒に考えています。
「話すことはできるのに書けない」「作文の宿題のたびに親子で疲れてしまう」といったお悩みをお持ちの方は、一度お気軽にご相談ください。
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